私がはじめて訪れたのは、一九七一年の初夏の頃だった。まだ緑豊かで、わずかではあるが立派な茅葺き屋根の農家の残るその地域を、六年後、八年後、一〇年後にも訪ねることになる。いまにして思えば、一九七一年という年は、老年人口比率が七パーセントを超え、日本が高齢化社会に踏み入った一九七〇年の翌年であった。しかし、まだ当時は〈高齢化社会〉というとらえ方はされておらず、〈老人問題〉への認識が高まりつつあるといった状況だった。
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政策でも研究でも、老人は特別な対象で、老人福祉施設の研究はあっても、一般老人の住まいの研究はほとんどないという時代だった。そんななかで、私は、その静かな地域に住む九二人の老人の生活実態調査谷本女子大学(一番ヶ瀬康子ゼミによる)に参加する機会を得たのである。調査の目的は、ともかく当時まだ資料の少なかった一般在宅老人の生活実態を把握することであった。